【コーシーの積分定理の応用】 (sin x)/x 「ディリクレ積分」

大学院入試解析学系

みなさん、こんにちは。

今回は「今週の実積分」より、次の問題を解いてゆきたいと思います。

今週の実積分 #01

次の広義積分の値を求めよ。

$$I=\int_0^\infty\frac{\sin x}{x}dx$$

※この広義積分は ディリクレ積分Dirichlet integral)と呼ばれます。

複素積分に関する「コーシーの積分定理」や「留数定理」の実積分への応用の例題は 以下の記事 にまとめています。

複素関数論の講義の復習、期末試験やレポート、院試対策等に是非お役立て下さい!

積分値だけ知りたい!

$$\int_0^\infty\frac{\sin x}{x}dx=\frac{\pi}{2}$$

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【解答例】

関数 \(f(z)\) と経路 \(\Gamma\) の設定

まず、$$f(z)=\frac{e^{iz}}{z}$$ とし、積分経路として次の閉曲線 \(\Gamma\) を考える。

この関数と積分経路にする気持ちは...

まず、関数 \(f(z)\) を素直に
$$f(z)=\frac{\sin z}{z}$$と設定してしまうと、\(z\) の値によっては三角関数の処理が難しくなりそうです。そこで、オイラーの公式
$$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$$を念頭に置いて
$$f(z)=\frac{e^{iz}}{z}$$と定めてみようと思います。気持ちとしては、分子の \(z\) が実数 \(x\) であった場合の虚部に相当する部分から、被積分関数
$$\frac{\sin x}{x}$$を得たい
という思いです。(分母が奇関数であることもポイントです。)このことから、以下の積分経路では \(\Gamma_1\) と \(\Gamma_3\) を同時扱います。

一方、直交座標での重積分で長方形
$$\{\ (x,y) \mid a\leq x\leq b,\ c\leq y\leq d\ \}$$が扱いやすかったように、極座標(極形式)ではバウムクーヘンを切った形(中心が埋まった扇形も含む)
$$\{\ (r\cos\theta,r\sin\theta) \mid s\leq r\leq t ,\ \alpha\leq \theta\leq \beta\ \}$$が扱いやすい
です。

関数 \(f(z)\) の狙いから、積分経路は実軸との共通部分が原点に関して対称であり、極限をとることで実軸全体に広がってゆくものにしたいです。特異点(\(z=0\))が経路上に乗ってしまうことを避けることで、例えば、上記のような積分経路が考えられます。

まず、各経路 \(\Gamma_1+\Gamma_3\),\(\Gamma_2\),\(\Gamma_4\) 上での積分値を個別に考えてゆきます!

各 \(\Gamma_k\) 上で積分値を計算

\(\Gamma_1+\Gamma_3\) 上の積分値について

  • \(\Gamma_1\) 上で \(z=x\) と置換すると $$dz=dx$$
  • \(\Gamma_3\) 上で \(z=-x\) と置換すると $$dz=-dx$$

よって、\(\Gamma_1+\Gamma_3\) 上において

\begin{align}
&\int_{\Gamma_1+\Gamma_3}f(z)dz\\
&\quad=\int_\varepsilon^R f(x)dx+\int_R^\varepsilon f(-x)(-1)dx\\
&\quad=\int_\varepsilon^R\frac{e^{ix}}{x}dx-\int_\varepsilon^R\frac{e^{-ix}}{x}dx\\
&\quad=\int_\varepsilon^R\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{x}dx\\
&\quad=2i\int_\varepsilon^R\frac{\sin x}{x}dx
\end{align}

であるので

\begin{align}
&\int_{\Gamma_1+\Gamma_3}f(z)dz\to2iI&&(\varepsilon\to+0,\ R\to\infty)\tag{1}
\end{align}

となる。

\(\Gamma_2\) 上の積分値について

\(\Gamma_2\) 上において、\(z=Re^{i\theta}\) と置換すると $$dz=iRe^{i\theta}d\theta$$ すなわち $$\frac{1}{z}dz=id\theta$$ であるので

\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz
&=\int_0^\pi e^{iRe^{i\theta}}id\theta\\
&=i\int_0^\pi e^{iR\cos\theta}e^{-R\sin\theta}d\theta
\end{align}

となる。

よって、

\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq\int_0^\pi \left|e^{iR\cos\theta}e^{-R\sin\theta}\right|d\theta\\
&=\int_0^\pi e^{-R\sin\theta}d\theta\\
&=2\int_0^{\frac{\pi}{2}} e^{-R\sin\theta}d\theta
\end{align}

である。

ここで、\(\displaystyle 0\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}\) において $$\frac{2}{\pi}\theta\leq\sin\theta$$ である(ジョルダンの不等式)ので
\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq 2\int_0^{\frac{\pi}{2}} e^{-\frac{2R}{\pi}\theta}d\theta\\
&=\left[-\frac{\pi}{R}e^{-\frac{2R}{\pi}\theta}\right]_0^{\frac{\pi}{2}}\\
&=\pi\frac{1-e^{-R}}{R}\\
&\to0\quad(R\to\infty)
\end{align}すなわち
\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz\to0\quad(R\to\infty)\tag{2}
\end{align}となる。

\(\Gamma_4\) 上の積分値について

\(\Gamma_4\) 上において、\(z=\varepsilon e^{i\theta}\) と置換すると $$dz=i\varepsilon e^{i\theta}d\theta$$ すなわち $$\frac{1}{z}dz=id\theta$$ であるので
\begin{align}
\int_{\Gamma_4}f(z)dz
&=\int_\pi^0 e^{i\varepsilon e^{i\theta}}id\theta\\
&=-i\int_0^\pi e^{i\varepsilon e^{i\theta}}d\theta
\end{align}となる。ここで、\(0\leq\theta\leq\pi\) において、被積分関数は \(\theta\) に関して連続であって
\begin{align}
\lim_{\varepsilon\to+0}e^{i\varepsilon e^{i\theta}}=1
\end{align}より有界である。よって、積分と極限が交換できるので
\begin{align}
&\int_{\Gamma_4}f(z)dz\\
&\ \to-i\int_0^\pi d\theta\quad(\varepsilon\to+0)\\
&\ =-\pi i\tag{3}
\end{align}となる。

一方、経路 \(\Gamma\) 全体で考えると、あの定理を適用することができます!

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\(\Gamma\) 上で「積分定理」を適用

さて、関数 \(f(z)\) は閉曲線 \(\Gamma\) の囲む領域の境界と内部で正則なので、コーシーの積分定理Cauchy’s integral theorem)より
\begin{align}
\oint_\Gamma f(z)dz=0
\end{align}すなわち

\begin{align}
\int_{\Gamma_1+\Gamma_3}f(z)dz+\int_{\Gamma_2}f(z)dz+\int_{\Gamma_4}f(z)dz=0\tag{4}
\end{align}

が成り立つ。

さあ、準備は整いましたね!

極限をとり積分値 \(I\) を得る

式 (4) において極限 \(\varepsilon\to+0\),\(R\to\infty\) を考えると、式 (1)、(2)、(3) より
\begin{align}
2iI+0+(-\pi i)=0
\end{align}すなわち
\begin{align}
I=\frac{\pi}{2}
\end{align}を得る。

これで求めたい積分値を得ることができました。

お疲れ様でした!!

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解説動画の紹介

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本記事は、YouTube「今週の実積分」で公開されている以下の動画を基に作成されています。

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