【留数定理の応用】 (cos x)/(x^2+1) 〜三角関数×有理式〜

大学院入試解析学系

みなさん、こんにちは。

今回は「今週の実積分」より、次の問題を解いてゆきたいと思います。

今週の実積分 #04

次の広義積分の値を求めよ。

$$I=\int_{-\infty}^\infty\frac{\cos x}{x^2+1}dx$$

複素積分に関する「コーシーの積分定理」や「留数定理」の実積分への応用の例題は 以下の記事 にまとめてゆく予定です。

複素関数論の講義の復習、期末試験やレポート、院試対策等に是非お役立て下さい!

積分値だけ知りたい!

$$\int_{-\infty}^\infty\frac{\cos x}{x^2+1}dx=\frac{\pi}{e}$$

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【解答例】

関数 \(f(z)\) と経路 \(\Gamma\) の設定

まず、$$f(z)=\frac{e^{iz}}{z^2+1}$$ とし、積分経路として半径 \(R\) の上半円 \(\Gamma\) を考える。

この関数と積分経路にする気持ちは...

まず、関数 \(f(z)\) を素直に
$$f(z)=\frac{\cos z}{z^2+1}$$と設定してしまうと、\(z\) の値によっては三角関数の処理が難しくなりそうです。そこで、オイラーの公式
$$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$$を念頭に置いて
$$f(z)=\frac{e^{iz}}{z^2+1}$$と定めてみようと思います。気持ちとしては、分子の \(z\) が実数 \(x\) であった場合の実部に相当する部分から、被積分関数
$$\frac{\cos x}{x^2+1}$$を得たい
という思いです。(分母が偶関数であることもポイントです。)

一方、直交座標での重積分で長方形
$$\{\ (x,y) \mid a\leq x\leq b,\ c\leq y\leq d\ \}$$が扱いやすかったように、極座標(極形式)ではバウムクーヘンを切った形(中心が埋まった扇形も含む)
$$\{\ (r\cos\theta,r\sin\theta) \mid s\leq r\leq t ,\ \alpha\leq \theta\leq \beta\ \}$$が扱いやすい
です。

関数 \(f(z)\) の狙いから、積分経路は実軸との共通部分が原点に関して対称であり、極限をとることで実軸全体に広がってゆくものにしたいです。例えば、上記のような上半円の積分経路が考えられます。(原点を除く必要はありません。)

まず、各経路 \(\Gamma_1\),\(\Gamma_2\) 上での積分値を個別に考えてゆきます!

各 \(\Gamma_k\) 上で積分値を計算

\(\Gamma_1\) 上の積分値について

\(\Gamma_1\) 上において、\(z=x\) と置換すると $$dz=dx$$ であるので

\begin{align}
\int_{\Gamma_1}f(z)dz
&=\int_{-R}^Rf(x)dx\\
&=\int_{-R}^R\frac{\cos x+i\sin x}{x^2+1}dx\\
&=\int_{-R}^R\frac{\cos x}{x^2+1}dx+i\int_{-R}^R\frac{\sin x}{x^2+1}dx\\
&=\int_{-R}^R\frac{\cos x}{x^2+1}dx
\end{align}

より
\begin{align}
\int_{\Gamma_1}f(z)dz\to I\quad(R\to\infty)\tag{1}
\end{align}となる。

\(\Gamma_2\) 上の積分値について

\(\Gamma_2\) 上において、\(z=Re^{i\theta}\) とおくと $$dz=iRe^{i\theta}d\theta$$ であるので

\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz
&=\int_0^\pi f(Re^{i\theta})iRe^{i\theta}d\theta\\
&=iR\int_0^\pi \frac{e^{Rie^{i\theta}}e^{i\theta}}{R^2e^{2i\theta}+1}d\theta\\
&=iR\int_0^\pi \frac{e^{-R\sin\theta}e^{iR\cos\theta}e^{i\theta}}{R^2e^{2i\theta}+1}d\theta
\end{align}

である。

よって、\(R\) を十分大きくとると

\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq R\int_0^\pi \frac{|e^{-R\sin\theta}e^{iR\cos\theta}e^{i\theta}|}{|R^2e^{2i\theta}+1|}d\theta\\
&\leq R\int_0^\pi \frac{e^{-R\sin\theta}}{R^2-1}d\theta\\
&=\frac{2R}{R^2-1}\int_0^{\frac{\pi}{2}}e^{-R\sin\theta}d\theta
\end{align}

が成り立つ。

ここで、\(\displaystyle 0\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}\) において $$\frac{2}{\pi}\theta\leq\sin\theta$$ である(ジョルダンの不等式)ので
\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq\frac{2R}{R^2-1}\int_0^{\frac{\pi}{2}}e^{-\frac{2R}{\pi}\theta}d\theta\\
&=\frac{2R}{R^2-1}\left[-\frac{\pi}{2R}e^{-\frac{2R}{\pi}\theta}\right]_0^{\frac{\pi}{2}}\\
&=\pi\frac{1-e^{-R}}{R^2-1}\\
&\to0\qquad(R\to\infty)
\end{align}すなわち
\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz\to0\quad(R\to\infty)\tag{2}
\end{align}となる。

一方、経路 \(\Gamma\) 全体で考えると、留数定理を適用することができます!

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\(\Gamma\) 上で「留数定理」を適用

さて、十分大きな \(R\) について、関数 \(f(z)\) は閉曲線 \(\Gamma\) の囲む領域の内部に孤立特異点 \(z=i\) を持ち、それ以外で正則である。これは \(1\) 位の極なので、留数定理Residue theorem)より
\begin{align}
\oint_\Gamma f(z)dz
&=2\pi i\ \underset{z=i}{\rm Res}f(z)\\
&=2\pi i\lim_{z\to i}\frac{e^{iz}}{z+i}\\
&=2\pi i\frac{1}{2ei}\\
&=\frac{\pi}{e}
\end{align}すなわち
\begin{align}
\int_{\Gamma_1}f(z)dz+\int_{\Gamma_2}f(z)dz=\frac{\pi}{e}\tag{3}
\end{align}が成り立つ。

留数の計算は大丈夫ですか?

関数 \(\displaystyle f(z)=\frac{e^{iz}}{z^2+1}\) が \(1\) 位の極 \(i\) の周りで
\begin{align}
f(z)
&=\sum_{n=-1}^{\infty} a_n(z-i)^n\\
&=\frac{a_{-1}}{z-i}+a_0+a_1(z-i)+\cdots
\end{align}とローラン展開できたとすると、\(z=i\) における留数は
$$\underset{z=i}{\rm Res}f(z)=a_{-1}$$によって求めることがきます。具体的に、ローラン展開から係数 \(a_{-1}\) を抽出するには

  1. 両辺に \((z-i)\) をかけて$$(z-i)f(z)=a_{-1}+a_0(z-i)+\cdots$$とし、負冪の項をなくします。
  2. 両辺の極限をとることで$$\lim_{z\to i}\left\{(z-i)f(z)\right\}=a_{-1}$$が成り立ちます。

今、\(\displaystyle f(z)=\frac{e^{iz}}{(z+i)(z-i)}\) であるので
$$\underset{z=i}{\rm Res}f(z)=\lim_{z\to i}\frac{e^{iz}}{z+i}$$で求められるのです。

さあ、準備は整いましたね!

極限をとり積分値 \(I\) を得る

式 (3) において極限 \(R\to\infty\) を考えると、式 (1)、(2) より
\begin{align}
I+0=\frac{\pi}{e}
\end{align}すなわち
\begin{align}
I=\frac{\pi}{e}
\end{align}を得る。

これで求めたい積分値を得ることができました。

お疲れ様でした!!

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解説動画の紹介

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本記事は、YouTube「今週の実積分」で公開されている以下の動画を基に作成されています。

不明な箇所があった場合やお気づきの点等ございましたらコメントをお願いします。

ありがとうございました!

AkiyaMath

 
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▶︎修士(数理学)
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