【留数定理の応用】 1/(5+3cosθ) 〜三角関数を含む関数〜

大学院入試解析学系

みなさん、こんにちは。

今回は「今週の実積分」より、次の問題を解いてゆきたいと思います。

今週の実積分 #02

次の定積分の値を求めよ。

$$I=\int_0^{2\pi}\frac{1}{5+3\cos\theta}d\theta$$

複素積分に関する「コーシーの積分定理」や「留数定理」の実積分への応用の例題は 以下の記事 にまとめてゆく予定です。

複素関数論の講義の復習、期末試験やレポート、院試対策等に是非お役立て下さい!

積分値だけ知りたい!

$$\int_0^{2\pi}\frac{1}{5+3\cos\theta}d\theta=\frac{\pi}{2}$$

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【解答例】

経路 \(\Gamma\) の設定

まず、積分経路として単位円周 \(\Gamma\colon |z|=1\) を考える。

この積分経路にする気持ちは...

計算したいのは \(\theta\) の区間 \([0, 2\pi]\) 上の積分で、被積分関数は \(\cos\theta\) の有理式になっています。そこで、複素平面上の閉曲線で、この \(\theta\) をパラメータとして採用して計算を進められるものがあるか考えます。

例えば、単位円周 \(|z|=1\) を考えると \(z=e^{i\theta}\) とパラメータをとることができて、\(dz=ie^{i\theta}d\theta\) より
\begin{align}
d\theta=\frac{1}{iz}dz\tag{A}
\end{align}となります。また、オイラーの公式 \(e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\) より
\begin{align}
\cos\theta&=\Re z=\frac{1}{2}(z+\overline{z}),\\
\sin\theta&=\Im z=\frac{1}{2i}(z-\overline{z})
\end{align}であって、\(z\overline{z}=|z|^2=1\) より
\begin{align}
\begin{array}{l}
\displaystyle \cos\theta=\frac{1}{2}\left(z+\frac{1}{z}\right),\\[5pt]
\displaystyle \sin\theta=\frac{1}{2i}\left(z-\frac{1}{z}\right)
\end{array}\tag{B}
\end{align}と書けます。よって、(A) と (B) から被積分関数は \(z\) の有理式で書ける見通しが立ちますね。

求めたい値 \(I\) は複素平面上の閉曲線上の積分で書き表せていて、その被積分関数は \(z\) の有理式で書けます。いよいよ「コーシーの積分定理や留数定理を適用したい」という気持ちになるので、計算を進めてゆくことになります。

実数 \(\theta\) の区間 \([0, 2\pi]\) と複素平面上の弊曲線 \(|z|=1\) を対応させる変換 \(z=e^{i\theta}\) は、この問題で現れる特別な値 \(5\) や \(3\) に依らず、よく用います。

では、\(z=3e^{i\theta}\) や \(z=\frac{3}{5}e^{i\theta}\) と変換して、被積分関数をそれぞれ $$\frac{1}{5+\Re z}$$ や $$\frac{1}{5}\times\frac{1}{1+\Re z}$$ と計算することに利点はあるでしょうか。円の半径をいじっただけですが、何か新しい着眼点を得るきっかけになれば嬉しいです!

積分値 \(I\) を \(\Gamma\) 上の積分で表示

\(\Gamma\) 上において、\(z=e^{i\theta}\) と置換すると $$dz=ie^{i\theta}d\theta$$ すなわち $$\frac{1}{iz}dz=d\theta$$ であるので

\begin{align}
I
&=\int_0^{2\pi}\frac{1}{5+3\cos\theta}d\theta\\
&=\oint_{|z|=1}\frac{1}{5+3\dfrac{z+z^{-1}}{2}}\frac{1}{iz}dz\\
&=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{1}{10z+3(z^2+1)}dz\\
&=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{1}{3z^2+10z+3}dz\\
&=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{1}{(3z+1)(z+3)}dz\tag{1}
\end{align}

となる。

この形まで持ち込むと、あの定理を適用することができます!

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\(\Gamma\) 上で「留数定理」を適用

さて、$$f(z)=\dfrac{1}{(3z+1)(z+3)}$$ とおくと、関数 \(f(z)\) は閉曲線 \(|z|=1\) の囲む領域の内部に孤立特異点 \(\displaystyle z=-\frac{1}{3}\) を持ち、それ以外で正則なので、留数定理Residue theorem)より
\begin{align}
&\oint_{|z|=1}\frac{1}{(3z+1)(z+3)}dz\\
&\quad=2\pi i\ \underset{z=-\frac{1}{3}}{\rm Res}f(z)\\
&\quad=2\pi i\lim_{z\to-\frac{1}{3}}\frac{1}{3(z+3)}\\
&\quad=2\pi i\times\frac{1}{8}\\
&\quad=\frac{\pi i}{4}\tag{2}
\end{align}となる。

留数の計算は大丈夫ですか?

関数 \(\displaystyle f(z)=\dfrac{1}{(3z+1)(z+3)}\) が \(1\) 位の極 \(\displaystyle -\frac{1}{3}\) の周りで
\begin{align}
f(z)
&=\sum_{n=-1}^{\infty} a_n\left(z+\frac{1}{3}\right)^n\\
&=\frac{a_{-1}}{z+\frac{1}{3}}+a_0+a_1\left(z+\frac{1}{3}\right)+\cdots
\end{align}とローラン展開できたとすると、\(\displaystyle z=-\frac{1}{3}\) における留数は
$$\underset{z=-\frac{1}{3}}{\rm Res}f(z)=a_{-1}$$によって求めることがきます。具体的に、ローラン展開から係数 \(a_{-1}\) を抽出するには

  1. 両辺に \(\displaystyle \left(z+\frac{1}{3}\right)\) をかけて$$\left(z+\frac{1}{3}\right)f(z)=a_{-1}+a_0\left(z+\frac{1}{3}\right)+\cdots$$とし、負冪の項をなくします。
  2. 両辺の極限をとることで$$\lim_{z\to-\frac{1}{3}}\left\{\left(z+\frac{1}{3}\right)f(z)\right\}=a_{-1}$$が成り立ちます。

今、\(\displaystyle f(z)=\dfrac{1}{3\left(z+\frac{1}{3}\right)(z+3)}\) であるので
$$\underset{z=-\frac{1}{3}}{\rm Res}f(z)=\lim_{z\to-\frac{1}{3}}\frac{1}{3(z+3)}$$で求められるのです。

さあ、求める値はもう目の前です!

以上より積分値 \(I\) を得る

以上、式 (1)、(2) より
\begin{align}
I
&=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{1}{(3z+1)(z+3)}dz\\
&=\frac{2}{i}\times\frac{\pi i}{4}\\
&=\frac{\pi}{2}
\end{align}を得る。

これで、求めたい積分値を得ることができました。

お疲れ様でした!!

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解説動画の紹介

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本記事は、YouTube「今週の実積分」で公開されている以下の動画を基に作成されています。

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