【コーシーの積分定理の応用】 cos(x^2), sin(x^2) 「フレネル積分」

大学院入試解析学系

みなさん、こんにちは。

今回は「今週の実積分」より、次の問題を解いてゆきたいと思います。

今週の実積分 #05

次の広義積分の値を求めよ。

\begin{align}
I&=\int_0^\infty\cos x^2 dx,\\
J&=\int_0^\infty\sin x^2 dx
\end{align}

※この広義積分は フレネル積分Fresnel integral)と呼ばれます。

複素積分に関する「コーシーの積分定理」や「留数定理」の実積分への応用の例題は 以下の記事 にまとめています。

複素関数論の講義の復習、期末試験やレポート、院試対策等に是非お役立て下さい!

積分値だけ知りたい!

$$\int_0^\infty\cos x^2 dx=\int_0^\infty\sin x^2 dx=\frac{1}{2}\sqrt{\frac{\pi}{2}}$$

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【解答例】

関数 \(f(z)\) と経路 \(\Gamma\) の設定

まず、$$f(z)=e^{iz^2}$$ とし、積分経路として半径 \(R\) で中心角 \(\displaystyle \frac{\pi}{4}\) の扇形の閉曲線 \(\Gamma\) を考える。

この関数と積分経路にする気持ちは...

まず、関数 \(f(z)\) を素直に
$$f(z)=\cos z^2$$などと設定してしまうと、\(z\) の値によっては三角関数の処理が難しくなりそうです。そこで、オイラーの公式
$$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$$を念頭に置いて \(f(z)=\frac{e^{iz^2}+e^{-iz^2}}{2}\) しても良いですが、\(I\) だけでなく \(J\) もあるので $$f(z)=e^{iz^2}$$ と定めてみようと思います。気持ちとしては、分子の \(z\) が実数 \(x\) であった場合の実部と虚部に相当する部分から、被積分関数を得たいという思いです。

一方、直交座標での重積分で長方形
$$\{\ (x,y) \mid a\leq x\leq b,\ c\leq y\leq d\ \}$$が扱いやすかったように、極座標(極形式)ではバウムクーヘンを切った形(中心が埋まった扇形も含む)
$$\{\ (r\cos\theta,r\sin\theta) \mid s\leq r\leq t ,\ \alpha\leq \theta\leq \beta\ \}$$が扱いやすい
です。

扇形の中心角について、今回は \(\int_0^\infty e^{ix^2} dx\) はすぐにわからないが \(\int_0^\infty e^{-x^2} dx\) はGauss積分という有名な積分になります。ここで、$$iz^2=-x^2$$ となる置換として、例えば $$z=xe^{\frac{\pi}{4}i}$$ を考えます。この置換をしたいので、中心角は \(\frac{\pi}{4}\) とします。

まず、各経路 \(\Gamma_1\),\(\Gamma_2\),\(\Gamma_3\) 上での積分値を個別に考えてゆきます!

各 \(\Gamma_k\) 上で積分値を計算

\(\Gamma_1\) 上の積分値について

\(\Gamma_1\) 上において、\(z=x\) と置換すると \(dz=dx\) であるので

\begin{align}
&\int_{\Gamma_1}f(z)dz\\
&\quad=\int_0^Re^{ix^2}dx\\
&\quad=\int_0^R(\cos x^2+i\sin x^2)dx\\
&\quad=\int_0^R\cos x^2dx+i\int_0^R\sin x^2dx\\
&\quad\to I+iJ\qquad(R\to\infty)\tag{1}
\end{align}

となる。

\(\Gamma_2\) 上の積分値について

\(\Gamma_2\) 上において、\(z=Re^{i\theta}\) と置換すると \(dz=iRe^{i\theta}d\theta\) であるので

\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz
&=\int_0^{\frac{\pi}{4}} e^{iR^2e^{2i\theta}}iRe^{i\theta}d\theta\\
&=iR\int_0^{\frac{\pi}{4}} e^{iR^2\cos2\theta}e^{-R^2\sin2\theta}e^{i\theta}d\theta
\end{align}

となる。

よって、

\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq R\int_0^{\frac{\pi}{4}} \left|e^{iR^2\cos2\theta}e^{-R^2\sin2\theta}e^{i\theta}\right|d\theta\\
&=R\int_0^{\frac{\pi}{4}}e^{-R^2\sin2\theta}d\theta
\end{align}

である。

ここで、\(\displaystyle 0\leq\theta\leq\frac{\pi}{4}\) において $$\frac{4}{\pi}\theta\leq\sin2\theta$$ である(ジョルダンの不等式)ので
\begin{align}
\left|\int_{\Gamma_2}f(z)dz\right|
&\leq R\int_0^{\frac{\pi}{4}} e^{-\frac{4R^2}{\pi}\theta}d\theta\\
&=R\left[-\frac{\pi}{4R^2}e^{-\frac{4R^2}{\pi}\theta}\right]_0^{\frac{\pi}{4}}\\
&=\pi\frac{1-e^{-R^2}}{4R}\\
&\to0\qquad(R\to\infty)
\end{align}すなわち
\begin{align}
\int_{\Gamma_2}f(z)dz\to0\quad(R\to\infty)\tag{2}
\end{align}となる。

\(\Gamma_3\) 上の積分値について

\(\Gamma_3\) 上において、\(z=xe^{\frac{\pi}{4}i}\) と置換すると \(dz=e^{\frac{\pi}{4}i}dx\) であるので
\begin{align}
\int_{\Gamma_3}f(z)dz
&=\int_R^0 e^{-x^2}e^{\frac{\pi}{4}i}dx\\
&=-e^{\frac{\pi}{4}i}\int_0^R e^{-x^2}dx
\end{align}となる。ここで、Gauss積分より $$\int_0^\infty e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$$ であるので

\begin{align}
\int_{\Gamma_3}f(z)dz\to-\frac{\sqrt{\pi}}{2}e^{\frac{\pi}{4}i}\quad(R\to\infty)\tag{3}
\end{align}

となる。

一方、経路 \(\Gamma\) 全体で考えると、あの定理を適用することができます!

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\(\Gamma\) 上で「積分定理」を適用

さて、関数 \(f(z)\) は閉曲線 \(\Gamma\) の囲む領域の境界と内部で正則なので、コーシーの積分定理Cauchy’s integral theorem)より
\begin{align}
\oint_\Gamma f(z)dz=0
\end{align}すなわち

\begin{align}
\int_{\Gamma_1}f(z)dz+\int_{\Gamma_2}f(z)dz+\int_{\Gamma_3}f(z)dz=0\tag{4}
\end{align}

が成り立つ。

さあ、準備は整いましたね!

極限をとり積分値 \(I\) を得る

式 (4) において極限 \(\varepsilon\to+0\),\(R\to\infty\) を考えると、式 (1)、(2)、(3) より
\begin{align}
(I+iJ)+0+\left(-\frac{\sqrt{\pi}}{2}e^{\frac{\pi}{4}i}\right)=0
\end{align}すなわち
\begin{align}
I=J=\frac{1}{2}\sqrt{\frac{\pi}{2}}
\end{align}を得る。

これで求めたい積分値を得ることができました。

お疲れ様でした!!

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解説動画の紹介

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本記事は、YouTube「今週の実積分」で公開されている以下の動画を基に作成されています。

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