円周率 \(\pi\) の無理性を証明した こちらの記事 に関連して、今回はネイピア数 \(e\) の無理性を証明したいと思います。
前半でネイピア数 \(e\) の様々な定義について述べてから、後半で証明を行います。証明だけ見たいという方は、リンクになっている以下の目次から後半に飛んでご覧ください。
それでは早速、参りましょう!
ネイピア数 \(e\) の様々な定義たち
高校数学で習う定義
高校数学では以下の式で実数 \(e\) を定めることが多いです。
$$e=\lim_{h\to0}(1+h)^{\frac{1}{h}}$$
大抵は、具体的な計算から \(h\to0\) のときに \((1+h)^{\frac{1}{h}}\) が一定の値に近づくと予想します。そして、実際に「それがある値 \(e\) に収束すること」が事実として紹介されるのです。確かに、これを高校数学の範囲で説明するのは不可能ですが、一歩、二歩くらいは核心に近づいてみましょう。
簡単のため、極限 \(h\to0\) の近づき方を \(\displaystyle h=\frac{1}{n}\) (\(n=1,2,\cdots\)) に則したものに制限してみます。そうすると
$$\lim_{h\to0}(1+h)^{\frac{1}{h}}=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$$
が成り立ちます。つまり、\(\displaystyle a_n=\left(1+\frac{1}{n}\right)^n\) によって定まる数列 \(\{a_n\}\) の収束性に関して考えれば良いのです。
ここで、直感的には明らかですが数学的に重要な事実をご紹介します。
実数からなる数列が超えることのない数があり、かつ、単調に増加するならば、その数列は何かしらの実数に収束する。
ここでは省略しますが、上記の数列 \(\{a_n\}\) に関しては、例えば、二項定理を用いることで仮定を満たすことを示せますので、ぜひチャレンジしてみてください。これにより、数列 \(\{a_n\}\) が収束すること、すなわち、その極限値 \(e\) が定義できることがわかるのです。
対数関数の導関数による定義
高校数学において、\(e\) はネイピア数ではなく「自然対数の底」と呼ばれます。対数の「自然さ」をどう考えたかというと、それは導関数が簡潔であることです。
実際に、対数関数 \(y=\log_ax\) の導関数を定義通りに計算してゆくと
\begin{align}
y^\prime
&=\lim_{h\to0}\frac{\log_a(x+h)-\log_ax}{h}\\
&=\lim_{h\to0}\frac{1}{x}\log_a\left(1+\frac{h}{x}\right)^\frac{x}{h}
\end{align}
ここで、 \(\displaystyle \frac{h}{x}\) を改めて \(h\) とおくと
\begin{align}
y^\prime
&=\lim_{h\to0}\frac{1}{x}\log_a\left(1+h\right)^\frac{1}{h}\\
&=\frac{1}{x}\log_ae
\end{align}
となります。
さて、これを簡潔にする対数の底 \(a\) は何かというと、真数となっているネイピア数 \(e\) ですね。これより自然対数の微分公式
$$(\log_ex)^\prime=\frac{1}{x}$$
を得るのです。以上より、ネイピア数 \(e\) は
$$(\log_ax)^\prime=\frac{1}{x}$$
なる \(a\) として定義することができます。
指数関数の導関数による定義
\(y=f(x)=a^x\) とおくと、上で見た対数の微分公式 \(\displaystyle \frac{d}{dy}\log_ay=\frac{1}{y}\log_ae\) について
\begin{align}
\frac{d}{dy}\log_ay&=\frac{1}{y}\log_ae\\
\frac{d}{dy}f^{-1}(y)&=\frac{1}{y}\log_ae\\
\frac{1}{\displaystyle \frac{d}{dx}f(x)}&=\frac{1}{y\log_ea}\\
\frac{d}{dx}f(x)&=y\log_ea\\
\frac{d}{dx}a^x&=a^x\log_ea
\end{align}
と変形することができるので、ネイピア数 \(e\) は
$$\frac{d}{dx}a^x=a^x$$
なる \(a\) として定義することもできます。
マクローリン展開による定義
指数関数 \(f(x)=e^x\) が無限次の多項式
$$f(x)=a_0+a_1 x+a_2 x^2+a_3 x^3+\cdots$$
で表されているとしましょう。このとき、
- 多項式は \(0\) を代入すると定数項を抽出できる
- 多項式は微分すると係数が1個ずつずれる
という考えから、何回か微分して \(0\) を代入するという操作を行なってみます。そうすると
\begin{align}
f(0)&=a_0\\
f^\prime(0)&=a_1\\
f^{\prime\prime}(0)&=2a_2\\
f^{(3)}(0)&=3!a_3\\
f^{(4)}(0)&=4!a_4\\
&\vdots\\
f^{(n)}(0)&=n!a_n\\
&\vdots
\end{align}
となります。よって、一般に $$a_n=\frac{f^{(n)}(0)}{n!}$$ が成り立つのです。これより、
$$f(x)=f(0)+f^\prime(0)x+\frac{f^{\prime\prime}(0)}{2}x^2+\frac{f^{(3)}(0)}{3!}x^3+\cdots$$
を得ます。
今、\(\displaystyle \frac{d}{dx}f(x)=f(x)\) かつ \(f(0)=e^0=1\) ですから、何次の微分係数 \(f^{(n)}(0)\) も全て \(1\) で
$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\cdots$$
となります。(逆に、任意の \(x\) に対して級数 \(\displaystyle 1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\cdots\) が収束することが示されます。)
以上より、
\begin{align}
e
=e^1
=f(1)
=1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots
\end{align}
すなわち
$$e=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}$$
によってネイピア数 \(e\) を定義することができるのです。
無理性の証明
ここまで、ネイピア数 \(e\) の様々な定義を説明してきましたが、以下では直前に見た マクローリン展開 による
$$e=1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\frac{1}{4!}+\cdots$$
を採用することとします。
最後に
高校数学で採用されるネイピア数 \(e\) の定義から始まり、マクローリン展開を用いた定義まで確認した後、その定義を採用して無理性を証明しました。証明自体はとてもシンプルでしたね。
他の定義を採用した場合の無理性の証明を考えてみると面白いかもしれません…。
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