【1+1=2】証明は難しい?「ペアノの公理を “ドミノ” で理解する。」

高校数学+α数学基礎論

この \(1+1\) という計算の答えは、誰しも \(2\) であると答えるでしょう。小学生の頃から当たり前とされていますから「そりゃそうなるだろう」となりますね。

一方、本記事に辿り着く方は、\(1+1=2\) に関して

  • 数百ページの論文があるとか
  • 某知恵袋の “証明のコピペ(?)” など

見聞きしたことがあるかもしれません。

今回は、この計算を「前提として認めて良いもの」ではなく「成り立つか確認すべきもの」であるという立場になり、そんな当たり前を整備する数学基礎論(数理論理学、記号論理学)を、雰囲気だけでも感じられたらなと思っています。

  • 前半:意欲のある中学生高校生の方に向けて、抽象的で簡単にはいきませんが、わかりやすくイメージできるよう証明を追いつつ掘り下げます。
    → 関連:定義、次の数、和・加法・足し算、積・乗法・掛け算、…
     
  • 後半:意欲のある高校生大学生以上の方に向けて、大学以降の数学で学ぶ用語も用いつつ、実際に証明の裏側を確かめ、解説しつつ積み上げます。
    → 関連:ペアノの公理、数学的帰納法の原理、順序数、…

考える力は残しつつ、知識は一旦忘れて読み進めて見てください!

最新の記事はこちらです。

※もし、解釈や事実の誤り等を見つけた方がいらっしゃいましたら、ページ下部のコメント欄からお伝えいただければと思います!

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前半:実際に証明してみた!

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証明はこれだけ!?

長い準備を後に回せば、証明はこの計算だけです!

証明1

\begin{align}
1+1
&=1+{\rm suc}(0)\tag{A}\\
&={\rm suc}(1+0)\tag{B}\\
&={\rm suc}(1)\tag{C}\\
&=2\tag{D}
\end{align}

\({\rm suc}\) という見覚えのない記号も現れましたが、思ったよりは短い印象でしょうか。

何を計算しているの?

厳密な定義等は次の章に譲るとして、まずは証明のイメージを簡単にですが掴んでみましょう。

\(({\rm A})\) となる計算

この \({\rm suc}\) とは “successor” の略で「後継者」などの意味を持ちます。今の話題の中では「後者」と訳されることが多いです。つまり、
\begin{align}
1={\rm suc}(0)
\end{align}は「 \(1\) は \(0\) の後者である」という意味になります。これが、今の文脈では \(1\)(という記号)の定義となります。つまり、「 \(1\) って何?」という疑問には

「 \(0\) の次の数(を表す記号)だよ。」

と答えることになります。この後者を与える \({\rm suc}\) ですが、加法を前提としないのがポイントです。

\(({\rm B})\) となる計算

ここで行うのは $$1+1={\rm suc}(1+0)$$ という計算ですから、上のように \({\rm suc}\) を翻訳してみると

\(1+1\) は \(1+0\) の次の数である。

となります。実は、これが加法の定義の半分になります。他に例えば、\(2+3\) という計算をしたければ、

  • \(2+3\) は \(2+2\) の次の数
  • \(2+2\) は \(2+1\) の次の数
  • \(2+1\) は \(2+0\) の次の数

というように続け、最終的に「 \(2+3\) は \(2+0\) の次の次の次の数である」となるのです。ここで、
\begin{align}
2&={\rm suc}(1),&3&={\rm suc}(2)
\end{align}です。では、\(1+0\) や \(2+0\) はどのように扱うのか、次の項でお伝えします。

\(({\rm C})\) となる計算

ここで変化しているのは、\({\rm suc}\) の変数の \(1+0\) が \(1\) になる部分です。これが加法の定義の残り半分で「 \(+0\) は数を変えない」というものです。例えば、
\begin{align}
1+0&=1,&2+0&=2
\end{align}などとなります。

\(({\rm D})\) となる計算

ふたつ前の項で先走って述べてしまいましたが、\(2\) とは \(1\) の次の数であると定義され、記号では
\begin{align}
2={\rm suc}(1)
\end{align}と書かれます。

ここまで、証明中に現れた変形を掘り下げつつ解説してきました。興味を持った方は、以下、読み進めていてください。これらを逆に積み上げてゆき、証明まで再び戻ってくることを目指します。

我々が準備するべきなのは

  • 自然数における関数 \({\rm suc}\)
  • \(1\) や \(2\) という数を表す記号
  • 自然数に対する加法 \(+\)

です。(今回、乗法には言及しません。)

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後半:ペアノの公理から始める。

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「ペアノの公理」とは。

我々の知っている自然数(但し、\(0\) も自然数に含むことにします。)は、以下の ペアノの公理 を満たします。

今、\(\mathbb{N}\) を自然数全体からなる集合、\(0\) を定数、\({\rm suc}\) を定義域が \(\mathbb{N}\) である関数とします。

ペアノの公理

  1. \(0\) は自然数である。
    すなわち、\(0\in\mathbb{N}\) である。
     
  2. 関数 \({\rm suc}\) のとる値は自然数のみである。
    すなわち、任意の \(n\in\mathbb{N}\) に対して \({\rm suc}(n)\in\mathbb{N}\) となる。このとき、自然数 \({\rm suc}(n)\) を \(n\) の後者といい、関数 \({\rm suc}\) を後者関数という。
     
  3. \(0\) はどんな自然数の後者にもならない。
    すなわち、任意の \(n\in\mathbb{N}\) に対して \({\rm suc}(n)\neq0\) である。
     
  4. 異なる自然数は、異なる後者を持つ。
    すなわち、後者関数 \({\rm suc}\) は単射である。
     
  5. \(\mathbb{N}\) の部分集合 \(K\) 対して
    \(0\in K\) である。
    \(k\in K\) ならば \({\rm suc}(k)\in K\) となる。
    が共に成り立つとき、\(K\) は \(\mathbb{N}\) に一致する。
     

この5番目の条件(第五公理)が 数学的帰納法の原理 です。

これらを満たす組 \((\mathbb{N},0,{\rm suc})\) の “型” は一意的に定まるので、自然数はペアノの公理によって特徴付けられるものの代表であると捉えることができます。

今回の証明で用いる自然数も、ペアノの公理を出発点として議論してゆきたいと思います。

以下、そんなペアノの公理が特徴付ける “型” のイメージを見てゆきます。

公理をドミノで理解する。

\(0\) という自然数の存在。

第一公理より、\(0\) という自然数が存在します。

他の自然数も、いくらでも存在するかもしれないですね。今の段階で数に関係性はなく

のような感じですが、ドミノですから並べておきましょう。

基本的に、左から右に倒れるものとします。左上のループはどちら回りでも。

青い列の一番左の黄色いドミノが \(0\) のイメージです。

行き先は常に一つの数。

第二公理より、どの自然数に対しても「次の数」が唯一つだけ存在します。

倒れる行き先は一つですので、ドミノの列の分岐を許しませんし、終点もありません。一方、倒れてくるドミノは複数あるかもしれませんし、ないかもしれません。現状、ループする可能性もありますね。

上部あった、終わりのある列。下部に伸びていた分岐が消えました。

\(0\) は必ず先頭である。

第三公理より、\(0\) に「前の数」は存在しないことが言えます。

つまり、\(0\) 向かってに倒れてくるドミノはなく、先頭なので、倒すとしたら直接倒す他ありません。この段階では、他にも先頭の自然数があるかもしれません。

「前の数」も常に一つ。

第四公理より、どの自然数も「前の数」があるとしたら唯一つであることが言えます。

つまり、ドミノの列の合流もないということになります。分岐も合流もなく、\(0\) という列の先頭はあるという状況です。

まだ考えられる可能性としては

  • 他の自然数を先頭に持ち、永遠に続く中央の列
  • いくつかの自然数からなる左上のループ

が他にあるかもしれない…くらいでしょうか。

数学的帰納法の原理。

第五公理より、上で見た中央の列や左上のループの存在が排除されます。

実際、\(0\) を先頭とする列を \(K\) とすると

  • \(K\) の先頭より「 \(0\in K\) 」となります。
  • \(K\) の数 \(k\) の後者 \({\rm suc}(k)\) も \(K\) の数なので $$k\in K\Longrightarrow{\rm suc}(k)\in K$$ となります。

ここで、 \(n\in K\) が \(n\) に対応するドミノが倒れることだとすると、黄色を倒すだけで全てが次々に倒れ切るイメージが持てますでしょうか。

よって、第五公理を認めれば \(K=\mathbb{N}\) となります。すなわち、\(0\) を先頭とした列が自然数全体 \(\mathbb{N}\) そのものであることを意味します。

以上のように、ペアノの公理によって、\(0\) から始まり無限に続く一つの列からなる自然数の構造が明確にされました!

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自然数の記号を決める。

さて、ペアノの公理によって特徴付けられる自然数の構造のイメージが持てましたでしょうか。

ペアノの公理に明示的に登場する数は \(0\) だけで、加法や乗法などの演算もなく、\(1\) や \(2\) も見かけませんでした。

ただ、後者関数 \({\rm suc}\) による「次の数」という考え方で定めた構造ですので、加法や他の数も \(0\) と \({\rm suc}\) で定義したいところですね。

まずは \(1\) や \(2\) から…

定義( \(1\) や \(2\) といった記号 )
  • \(1\) とは \(0\) の後者のこと。
    すなわち、\(1={\rm suc}(0)\) である。
     
  • \(2\) とは \(1\) の後者のこと。
    すなわち、\(2={\rm suc}(1)\) である。

同様に、\(3={\rm suc}(2)\) … と続けてゆきます。普段の数字は

\(0\) の次は \(1\)、
\(1\) の次は \(2\)、
\(2\) の次は \(3\)、
\(3\) の次は \(4\)、
\(4\) の次は \(5\)、

と続けてゆくだけです。

  • \(1\) は \(0\) の次
  • \(2\) は \(0\) の次の次
  • \(3\) は \(0\) の次の次の次
  • \(4\) は \(0\) の次の次の次の次
  • \(5\) は \(0\) の次の次の次の次の次

ということですね。

加法は前提とせずに定めた記号ですが、もちろん関係はあります。続いて、加法について見てみましょう!

自然数に加法を定義する。

自然数の加法 \(+\) の定義は以下のとおりです。

定義( 自然数における加法 \(+\) )

自然数全体 \(\mathbb{N}\) 上の二項演算 \(+\) を以下の通りに定める。

  1. 任意の自然数 \(n\) に対して $$n+0=n$$ とする。
  2. 任意の自然数 \(m\),\(n\) に対して $$m+{\rm suc}(n)={\rm suc}(m+n)$$ とする。

これは再帰的な定義になっており、この定義を何度も繰り返し参照することもあります。

※これが “ちゃんと” 定義になっているかまた、私たちが当たり前だと思っている加法の性質の確認が必要な気持ちになりますが、この記事の内容を超えるので省略したいと思います。ここで、ペアノの公理をフルに使います。この記事の中だけだと「公理を使っている感覚」は薄いかもしれません…。

私たちは加法を前提とせずに \(0\),\(1\),\(2\),\(3\),\(4\),\(5\) といった記号を定めていますから、使って計算してみましょう。(前半の \({\rm (B)}\)となる計算 でも少し見ましたね!)

定義の第一項目を (1) とし、第二項目を (2) とします。

加法の計算例
  • \(2+0\) を計算したいとき、(1) より $$2+0=2$$
     
  • \(2+1\) を計算したいとき、(2) より $$2+1=2+{\rm suc}(0)={\rm suc}(2+0)$$ 今、\(2+0=2\) なので $$2+1={\rm suc}(2)=3$$
     
  • \(2+2\) を計算したいとき、(2) より $$2+2=2+{\rm suc}(1)={\rm suc}(2+1)$$ 今、\(2+1=3\) なので $$2+2={\rm suc}(3)=4$$
     
  • \(2+3\) を計算したいとき、(2) より $$2+3=2+{\rm suc}(2)={\rm suc}(2+2)$$ 今、\(2+2=4\) なので $$2+3={\rm suc}(4)=5$$
     

最後の \(2+3\) を単体で出題されても、もし式変形のみで攻めたいのなら
\begin{align}
2+3
&={\rm suc}(2+2)\\
&={\rm suc}({\rm suc}(2+1))\\
&={\rm suc}({\rm suc}({\rm suc}(2+0)))\\
&={\rm suc}({\rm suc}({\rm suc}(2)))\\
&={\rm suc}({\rm suc}(3))\\
&={\rm suc}(4)\\
&=5
\end{align}となります。(何回「定義より…」と参照したのかという感じですね。)

結局は、\(2+3\) の「 \(+3\) 」の部分は「 \(3\) 回だけ後者関数 \({\rm suc}\) を作用させること」を表していますね。これが証明の核心だと思います。

  • 自然数 \(n\) に対して \(1\) を足した \(n+1\)
  • 自然数 \(n\) の次の数を指す \({\rm suc}(n)\)

これらが一致するということです。

以上を踏まえて、本題の証明を再び行い、終わりとしましょう。

改めて証明してみた。

証明2

加法の定義より \(1+0=1\) であるので、両辺の後者を考えると $${\rm suc}(1+0)={\rm suc}(1)$$ となる。加法の定義より、左辺は \(1+{\rm suc}(0)\) である。よって、\(1\) と \(2\) の定義より $$1+1=2$$ を得る。

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最後に。

Hello_re_3evm

\(1+1\) という計算は最も簡単な気がしますが、それ故に問題として「証明せよ」と言われると困ってしまうものです。

基礎論では、普段は当たり前としているところに矛盾や循環のない説明を与えようとしますが、当たり前としてきたが故の難しさがあるだろうと思います。

「 \(1+1=\) 」と言えば「たんぼの田」という(懐かしい)なぞなぞから始まりますが、この辺りを理解するのは “東大レベル” とかの例えではない別の難しさがありますね。

ありがとうございました。

AkiyaMath

 
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▶︎修士(数理学)
▶︎中高教諭専修免許状(数学)
▶︎実用数学技能検定1級
▶︎統計検定2級
 
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