中学1年生の頃に
マイナス×マイナスはプラスになる。
という性質を教わったと思います。今回は、その主張の基礎となる式 $$(-1)×(-1)=1$$ について、厳密な証明を与えたいと思います。この記事を通して、数学で証明する際の姿勢を感じていただければと思います。
証明に向けた準備から。
証明をする際に大切なことは
- 証明で示すべき結論
- 証明に使える道具
を明確にさせることです。特に、今回のように一見当たり前の主張を証明するときは、道具として何が使えるのかを見極める必要があります。
結論の分析 …
結論は $$(-1)\times(-1)=1$$ が成り立つことですね。登場するのは
- 乗法 \(\times\)
- 整数 \(1\)
- 整数 \(-1\)
です。そこで、これらの定義を “環論” の立場から確認しておきましょう。
道具の確認 …
数に対して、加法と乗法が計算の基本となります。このふたつの演算を備えた数の概念として「環」(かん)と呼ばれるものが存在します。その定義を述べておきます。
当たり前と思わずに、真っさらな気持ちで読み進めてみてください!
例えば、整数全体 \(\mathbb{Z}\)、有理数全体 \(\mathbb{Q}\)、実数全体 \(\mathbb{R}\)、複素数全体 \(\mathbb{C}\) などは通常の加法と乗法によって環となります。
一方、自然数全体 \(\mathbb{N}\) は通常の加法と乗法によって環とはなりません。実際、\(1\) は自然数ですが、その加法逆元 \(-1\) は自然数ではありません。
\(0\), \(1\), \(-1\) とは
環の定義において、今回の証明に臨むにあたって特に重要な点は、
- “\(0\)” という数は、加法に関する等式 $$x+0=0+x=x$$ のみによって特徴付けられる。
- “\(1\)” という数は、乗法に関する等式 $$x\times 1=1\times x=x$$ のみによって特徴付けられる。
- “\(-1\)” という数は、等式 $$x+1=1+x=0$$ を満たす数 \(x\) である。
ということです。これらの道具を駆使して証明を進めたいと思います。
いざ証明を!!
証明すべき性質1です。
\(R=\mathbb{Z}\)(整数全体)とします。
「数 \(a\) に \(\times 0\) したら \(=0\) になるのは \(0\) という数の定義ではない。」ということを思い出し、証明してみましょう。
性質1の証明
\(a\in R\) を任意にとり、\(x=a\times0\) とおく。加法単位元 \(0\) の定義より $$0+0=0$$ である。両辺に \(a\) を左からかけると、分配法則 D-1 より
\begin{align}
a\times(0+0)&=a\times0\\
a\times0+a\times0&=a\times0\\
x+x&=x
\end{align}となる。この両辺に \(-x\) を足すと
\begin{align}
(x+x)+(-x)&=x+(-x)\\
x+(x+(-x))&=x+(-x)\tag{A-1 より}\\
x+0&=0\tag{A-3 より}\\
x&=0\tag{A-2 より}
\end{align}となる。以上より、\(a\times 0=x=0\) を得る。
( \(0\times a=0\) についても同様に示されます。)
証明すべき性質2です。
こちらも、当たり前としてはいけません。
性質2の証明
\(a\in R\) を任意にとり、\(x=-a\) とおく。\(x\) は \(a\) の加法逆元であるので、A-3 より $$a+x=x+a=0$$ が成り立つ。この式を \(x\) に着目して見ると、\(a\) は \(x\) の加法逆元とも言える。よって、再び A-3 より $$a=-x=-(-a)$$ を得る。
証明を完成させよう!
いよいよ、メインの証明を行います。性質Aと性質Bを使って証明を完成させましょう。
証明
\(x=(-1)\times (-1)\) とおく。この両辺に \(-1\) を足すと
\begin{align}
x+(-1)
&=(-1)\times(-1)+(-1)\\
&=(-1)\times(-1)+(-1)\times1\tag{M-2 より}\\
&=(-1)\times((-1)+1)\tag{D-1 より}\\
&=(-1)\times0\tag{A-3 より}\\
&=0\tag{性質1}
\end{align}となる。これは A-3 より \(x=-(-1)\) であることを意味する。よって、
\begin{align}
(-1)\times(-1)
&=x\\
&=-(-1)\\
&=1\tag{性質2}
\end{align}を得る。
最後に。
今回は、マイナス×マイナス=プラスの基本となる \((-1)\times(-1)=1\) という数式を証明しました。
余裕のある方は
任意の数 \(a\), \(b\) に対して、\((-a)(-b)=ab\) となること。
が同様に証明できることを確認してみてくださいね。
証明を行うときは、結論を明確にして、仮定をはじめとする道具を整理することが大切でした。今回の証明を通して、それを感じていただけていたら嬉しいです。
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