数学Bの「統計的な推測」の第7回として 仮説検定の考え方 を扱います。(全7回)
今回は解説を含め、全3問を解いてゆきます。
母比率の検定(両側検定)
ある \(1\) 個のコインを \(400\) 回投げたところ、表が \(178\) 回出た。このコインの表が出る確率は \(\displaystyle \frac{1}{2}\) ではないと判断してよいか。有意水準 \(5\)%で検定せよ。
解答例
表が出る確率を \(p\) とする。以下の帰無仮説 \({\rm H}_0\) を考える。
$${\rm H}_0:p=\frac{1}{2},\quad{\rm H}_1:p\neq\frac{1}{2}$$
仮説 \({\rm H}_0\) の下、\(400\) 回のうち表が出る回数 \(X\) は二項分布 \(\displaystyle B\left(400,\frac{1}{2}\right)\) に従う。ここで、
- \(\displaystyle m=400\cdot\frac{1}{2}=200\)
- \(\displaystyle \sigma=\sqrt{400\cdot\frac{1}{2}\cdot\left(1-\frac{1}{2}\right)}=10\)
よって、\(\displaystyle Z=\frac{X-200}{10}\) は近似的に標準正規分布 \(N(0,1)\) に従う。
ここで、有意水準 \(5\)%の棄却域は $$Z\leq-1.96,\ 1.96\leq Z$$
今、\(X=178\) のときの $$Z=\frac{178-200}{10}=-2.2$$ は棄却域に入っている。これより、仮説 \({\rm H}_0\) は棄却されるので、表が出る確率が \(\displaystyle \frac{1}{2}\) ではないと判断してよい。
母比率の検定(片側検定)
発芽率が \(60\)%の種子に対して、発芽率が向上するように品種改良を行なった。改良後の種子から無作為に \(600\) 個抽出して種を蒔いたところ、\(384\) 個が発芽した。品種改良によって発芽率は向上したと判断してよいか。次の有意水準で検定せよ。
(1)有意水準 \(5\)%
(2)有意水準 \(1\)%
解答例
(1)改良後の発芽率を \(p\) とする。以下の帰無仮説 \({\rm H}_0\) を考える。
$${\rm H}_0:p=0.6,\quad{\rm H}_1:p>0.6$$
仮説 \({\rm H}_0\) の下、\(600\) 個のうち発芽する個数 \(X\) は二項分布 \(\displaystyle B\left(600,0.6\right)\) に従う。ここで、
- \(\displaystyle m=600\cdot0.6=360\)
- \(\displaystyle \sigma=\sqrt{600\cdot0.6\cdot\left(1-0.6\right)}=12\)
よって、\(\displaystyle Z=\frac{X-360}{12}\) は近似的に標準正規分布 \(N(0,1)\) に従う。
ここで、有意水準 \(5\)%の棄却域は $$Z\geq1.64$$
今、\(X=384\) のときの $$Z=\frac{384-360}{12}=2$$ は棄却域に入っている。これより、仮説 \({\rm H}_0\) は棄却されるので、品種改良によって発芽率は向上したと判断してよい。
(2)有意水準 \(1\)%の棄却域は $$Z\geq2.33$$
今、\(Z=2\) は棄却域に入っていない。これより、仮説 \({\rm H}_0\) は棄却されず、品種改良によって発芽率が向上したとは判断できない。
母平均の検定
ある数学の試験を全国の高校を対象に行ったところ、全国の平均点は \(54.2\) 点であった。ある \({\rm M}\) 高校の生徒から \(100\) 人を抽出したところ、その平均点は \(52.0\) 点で、標準偏差は \(12.0\) であった。このとき、\({\rm M}\) 高校全体の平均点は、全国の平均点と異なると判断してよいか。有意水準 \(5\)%で検定せよ。
解答例
\({\rm M}\) 高校の母平均を \(m\) とする。以下の帰無仮説 \({\rm H}_0\) を考える。
$${\rm H}_0:m=54.2,\quad{\rm H}_1:m\neq54.2$$
仮説 \({\rm H}_0\) の下、\(100\) 人の得点の標本平均 \(\overline{X}\) は近似的に正規分布 \(\displaystyle N\left(54.2,\frac{12.0^2}{100}\right)\) すなわち \(\displaystyle N\left(54.2,1.2^2\right)\) に従う。よって、\(\displaystyle Z=\frac{\overline{X}-54.2}{1.2}\) は近似的に標準正規分布 \(N(0,1)\) に従う。
ここで、有意水準 \(5\)%の棄却域は $$Z\leq-1.96,\ 1.96\leq Z$$
今、\(\overline{X}=52.0\) のときの $$Z=\frac{52.0-54.2}{1.2}=-1.83\cdots$$ は棄却域に入っていない。これより、仮説 \({\rm H}_0\) は棄却されず、\({\rm M}\) 高校全体の平均点が全国の平均点と異なるとは判断できない。
最後に。
「仮説検定」は、前回 扱った「推定」と並び、統計的推測の理論の重要な考え方です。仮説の下での結果と期待する結果の違いが偶然なのか、意味のあるものなのか。その有意性について、確率の力を使って評価してゆきます。
お疲れ様でした。
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